マンホールの下には何がいるのか|地下空間の都市伝説と実際の謎
道を歩いていると、足元にある丸い鉄の蓋。
ふと目に入るけど、普段は気にしない。
でも一度「あの下に何があるんだろう」と思い始めると、なぜか目が離せなくなる。
マンホールの下には、下水道や電線管路が広がっている。それは事実だ。
でも、それだけじゃないかもしれない。
世界中で語られる「マンホールの下に何かがいる」という話。日本でも、都市の地下に異様な空間があるという話は絶えない。
この記事では、マンホールにまつわる都市伝説・実際に起きた出来事・目撃証言・そして「なぜ人間は地下に恐怖を感じるのか」という謎まで、丁寧に掘り下げていく。
最後まで読んだあと、あなたはきっとマンホールを踏めなくなる。
マンホールの下には何があるのか|基本情報と知られざる実態
まず、現実的な話から入ろう。
マンホールの下には、主に以下のような設備がある。
- 下水道(雨水・汚水が流れる)
- 上水道の管路
- 電力ケーブルのトンネル
- 通信ケーブルの管路
- ガス管のルート
都市のインフラは、地上だけじゃなく地下にもびっしりと張り巡らされている。東京だけでも、下水道管の総延長は約16,000キロ以上。地球を半周できる距離だ。
そしてこのトンネルたちは、人が歩けるほど広い場所もある。
直径2メートルを超える下水道幹線トンネルは、普通に人が立って歩けるサイズだ。奥まで進めば、まるで地下の別世界のような空間が広がっている。天井には配管が走り、壁面は苔や水垢で覆われ、足元には薄く水が流れる。照明なんてほとんどない。懐中電灯の光だけが頼りになる、真っ暗な世界だ。
だが問題は、こういった場所に「関係者以外は絶対に立ち入れない」という点だ。
もし誰かが無断で入ったとしたら…何を見たのだろうか。
実際に、都市の地下には「公式には存在しないとされる空間」の噂も多い。戦時中に掘られた防空壕跡、廃止されたトンネル、地図にない地下通路。
東京・大阪・名古屋といった大都市では、戦前に掘られた地下構造物がそのまま放置されているケースが報告されている。完全に埋め戻されているわけでもなく、かといって整備されているわけでもない。ただそこにある、という状態の場所が確かに存在するとも言われている。
東京都の公式資料を調べると、昭和30年代以前に作られた下水道トンネルの一部は「現状確認困難」という記述がされているものがある。つまり、現在どういう状態になっているかが正確にはわかっていない、ということだ。地図にはあるのに、実態が不明な地下空間が存在する。これが都市伝説の土台になっている。
さらに意外な事実として、マンホールの蓋のデザインは自治体ごとに異なる。東京都のマンホールは銀杏の葉模様、京都は葵の紋章、下水道の種類(雨水・汚水)によっても柄が変わる。足元の蓋を見るだけで、その土地の文化が見えてくる。そういう「地表との接続点」としての顔も、マンホールは持っている。
起源と歴史|地下世界の恐怖はいつから始まったのか
「地下に何かが住んでいる」という話は、世界的にかなり古い。
古代の地下世界観
ギリシャ神話では、地下はハデスという冥界の神が支配する死者の国だった。生きたまま地下に降りることは、死に近づくことを意味した。
英雄オルフェウスは亡くなった妻を取り戻すために地下世界に降りていった。ヘラクレスも冥界に足を踏み入れた。しかし普通の人間が地下に降りることは、タブーとされていた。「地下への入り口を覗く者には呪いが降りかかる」という考え方も、古代から広く信じられていた。
北欧神話にもニフルヘイムという暗黒の地下世界がある。日本でも、イザナミが死んでから向かった「黄泉の国」は地下にあると考えられていた。
古今東西、人間は「地下=死者・魔物・闇の世界」と結びつけて考えてきた。
これは単なる迷信ではなく、実際に地下は暗くて危険な場所だったからだ。毒ガスが溜まることもある。酸欠になることもある。一度迷えば帰れない可能性がある。人間の本能的な恐怖が、地下への畏怖を生んだのかもしれない。
日本の民話にも、地面の穴や洞窟が「異界への入り口」として登場する例は多い。浦島太郎が向かった竜宮城も、広い意味では「水の下の別世界」だ。かぐや姫の竹の中も、地表から垂直に延びる「縦の異界」と解釈できる。日本人にとって「縦方向の移動」は、異世界との接触を意味してきたのかもしれない。
近代都市と地下のつながり
近代的な下水道システムが整備されたのは、19世紀のヨーロッパが最初とされている。
特にパリの下水道は有名で、「パリの下水道」という言葉はそのまま観光スポットになるほど広大な地下空間だ。ヴィクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』では、逃亡した主人公がパリの下水道を通って逃げる場面が描かれている。
現実のパリでも、第二次世界大戦中にレジスタンスがこの地下道を使って活動していたことが記録されている。人間が住み着いていた空間が、確かにあったわけだ。
パリの地下には下水道だけでなく、カタコンブと呼ばれる地下墓地もある。18世紀に市内の墓地が満杯になったため、地下採石場跡に600万人以上の遺骨が移された。今でも観光スポットとして一部が公開されているが、公開エリア以外への立ち入りは禁止されている。それでも不法侵入する人間(カタフィルと呼ばれる)が後を絶たず、時折行方不明者が出る。
日本では、江戸時代から木製の排水管が地下に埋められていた。明治以降、コンクリート製の下水道が整備されていき、都市の地下は急速に複雑になっていった。
戦時中には、空襲を避けるための地下施設が各地に作られた。そのいくつかは戦後も残り、一部は今も地下に眠っているとされている。横浜や神戸など港湾都市には、外国人居留地時代に作られた地下貯蔵庫の痕跡が残っているとも言われている。
「アリゲーター・イン・ザ・シーワー」の誕生
マンホールにまつわる都市伝説で世界的に有名なのが、「下水道にアリゲーター(ワニ)が住んでいる」という話だ。
これはアメリカ、特にニューヨークで1930年代ごろから広まったとされている。
話の内容はこうだ。ペットとして飼っていた小さなワニが、大きくなったので下水道に流した。地下の暗闇の中でワニは生き延び、下水道の中で巨大化した。そして今も地下に棲みついている、という。
「都市伝説だろう」と思うかもしれないが、実際にニューヨーク市当局が1935年にマンホール付近でワニを捕獲したという新聞記事が残っている。すべてが作り話というわけでもないらしい。
さらに2010年代以降、フロリダ州でペットのニシキヘビが下水道に放流され、野生化・繁殖した事例が問題になっている。こちらは完全に事実だ。外来種がインフラの隙間で繁殖するという話は、もはや都市伝説の範疇を超えている。
日本でも似た話はある。下水道でネズミが異常繁殖しているとか、何か得体の知れない生物の痕跡があったという話は、清掃業者や工事関係者の間で語られることがあるという。関東近郊の下水道管理作業員に話を聞くと、「ネズミはもちろんだけど、たまにわけのわからない生き物の死骸が出ることもある」と語る人もいる。それが何だったのかは、みんな口を濁すという。
実際の証言・体験談|地下に潜った人たちが見たもの
ここからは、実際に語られた体験談や目撃情報を紹介する。
すべてが事実かどうかは確認が難しい。でも「誰かがそう語った」という事実は消えない。
下水道作業員が語ったこと
ある下水道の保守作業員が、ネットの匿名掲示板に書き込んだ内容がある(複数のまとめサイトに転載されており、広く知られている話だ)。
「深夜の点検作業中に、明らかに人の足音のような音が地下から聞こえた。自分以外に入れるはずがない。懐中電灯で照らしても何もいなかった。でも音は確かにした」
「別の日には、壁に引っかき傷のようなものを見つけた。動物にしては線が細すぎる。でも人間の爪では硬すぎる壁面だった」
こういった話は、一人の書き込みではなく複数の関係者が似たような内容を語っていることがある。
別の作業員はこう語っている。「古いトンネルの補修に入ったとき、壁の一部が明らかに後から塗り直されていた。しかもコンクリートじゃない、土で埋めたみたいな感じで。上司に聞いたら『気にするな』とだけ言われた。それ以上は聞けなかった」
地下で働く人たちには、話さない理由がある。職場の空気もあるし、「そういうことを言う人間だと思われたくない」という意識もある。表に出てくる話は、氷山の一角かもしれない。
東京・廃トンネルの目撃談
東京には、明治・大正時代に掘られて現在は使われていないトンネルや洞窟が複数あるとされている。
その一つとされる場所の近くに住んでいた人が、こう語っていた(これは本人から直接聞いた話として、都市伝説系ライターが記録したものだ)。
「夜中の2時ごろ、マンホールの蓋がゆっくり動いているのを見た。下から何かが押し上げているみたいだった。目を離した瞬間には元に戻っていた。気のせいかと思ったけど、翌朝見たら蓋の位置が少しずれていた」
マンホールの蓋は重い。一般的な鋳鉄製のマンホール蓋は20〜40キログラムある。普通に内側から人が押しても、かなりの力が必要だ。そもそも内側からは開けにくい構造になっているものも多い。
だとすれば、あの夜に起きたことは何だったのか。
ただし、大雨の後にマンホールの蓋が水圧で浮き上がることは、実際に起きる現象だ。激しい集中豪雨のとき、下水道が満水になって内圧が上がり、蓋が飛ぶことがある。しかしその夜は晴れていた、と証言者は言う。
「地下人」の噂
世界規模で語られる話の中に、「ホームレスの人たちが地下に独自のコミュニティを作っている」というものがある。
これは完全な作り話ではない。
ニューヨークでは1990年代、グランドセントラル駅やその周辺の廃トンネルに数百人規模のホームレスコミュニティが実在していたことが確認されている。ジャーナリストのマーガレット・モートンが写真集にまとめており、記録として残っている。
「モール・ピープル(地下の人々)」と呼ばれるこのコミュニティは、単に雨風をしのぐだけでなく、電力を盗用して生活用品を整え、独自のルールで暮らしていた。外の世界と断絶した、真の意味での「地下社会」だったとも言われている。
日本でも、バブル崩壊後に大阪・梅田地下街の一部や、東京・上野の地下通路付近に人が定住していたことがある。行政による支援と強制退去の繰り返しの中で、一部の人たちは「見えにくい場所」を探して移動を続けた、という話もある。
「地下に人が住んでいる」という話が都市伝説として語られる背景には、こういった現実の出来事が影を落としているのかもしれない。都市の見えない場所に、見えない人たちがいる。その事実と恐怖が混ざり合って、伝説になっていく。
長尾さんの体験
このブログを運営している長尾さんに、マンホールや地下空間にまつわる体験を聞いてみた。
「子供のころ、夏祭りの帰り道で開いたままのマンホールを見つけたことがあるんです。蓋が完全に外れて、暗い穴がぽっかり口を開けてた。覗き込もうとしたら親に引っ張られましたけど、あのとき確かに下から何か音がしたんです。水の音じゃない、もっとざわざわした感じの音。今でも夢に出てくることがある」
「大人になってから知ったんですが、その近くの道は昔、川の上に蓋をして作った道路だったらしくて。もしかしたら下に古い水路が残ってたのかもしれないけど…それにしても、あの音は不思議だった」
さらに長尾さんはこう続けた。「その話を近所のおじいさんにしたら、『あの辺は昔から変な場所だ』って言うんですよ。戦時中に防空壕があったとか、終戦後もしばらくそのまま放置されてたとか。今は埋まってるはずだけど、完全には埋まりきっていないかもしれないって。そう聞いてから、あの音の正体がますますわからなくなった」
開いたマンホールの穴。下から聞こえた正体不明の音。そして地元の古老が語る、戦時中の記憶。
何十年も経った今でも、あの感触は消えないという。
科学的・民俗学的考察|地下の恐怖はどこから来るのか
「地下に何かがいる」という感覚は、なぜ世界中で共通して生まれるのだろうか。
科学的な観点と、民俗学的な観点から考えてみる。
暗所への本能的な恐怖
人間の脳は、視覚情報が遮断される暗い空間に対して、強い不安反応を示すことがわかっている。
これは進化の過程で獲得した本能的な反応だとされている。暗闇には危険が潜んでいる可能性が高い。視界が効かない状況では逃げにくい。そのため、暗所に対して恐怖を感じる個体のほうが生存率が高かった、というわけだ。
地下空間はまさにその「暗くて逃げにくい場所」の典型だ。本能的な恐怖を刺激しやすい環境が、そもそもそろっている。
脳科学の研究では、暗所に入ると扁桃体(恐怖や不安の処理に関わる脳の部位)が活性化することが確認されている。地下に入っただけで、脳が「危険モード」に入る。そしてその状態で聞こえた音や見えた影は、実際よりも大きく、脅威的に感じられやすい。
地下での体験談の多くには、この「扁桃体過活動」が関わっている可能性がある。科学的に見ると、「地下では怖いものが見えやすい」ということになる。
閉所恐怖症(クローストロフォビア)の影響
閉所恐怖症は、閉じた狭い空間に強い恐怖や不安を感じる状態のことだ。
統計によっては、人口の5〜10%がこの傾向を持っているとも言われている。地下空間はまさに「上が塞がれた閉じた場所」であるため、こういった恐怖を刺激しやすい。
何かがいる、何かに追われる、という感覚は、閉所恐怖が生み出す脳の誤作動である可能性もある。
実際、閉所恐怖症の強い人がMRI検査を受けると、機械に入っただけでパニック発作を起こすことがある。その感覚は「何かに圧迫されている」「逃げられない」という形で現れる。地下空間でそれに近い感覚を覚えた人が「何かに追われている気がした」と語るのは、症状として理解できる現象だ。
音の反響と聴覚錯覚
地下空間は音の反響が独特だ。
コンクリートや石の壁に音が反射するため、実際の音源がわかりにくくなる。自分の足音が遠くから聞こえるような感覚、誰もいないのに声が聞こえるような錯覚が起きやすい環境だ。
特に注目すべきは「インフラサウンド」と呼ばれる、人間の耳には聞こえない低周波音の影響だ。下水道や電力管路の近くでは、こういった低周波が発生することがある。インフラサウンドは耳では聞き取れないが、体に影響を与える。不安感、恐怖感、「誰かがいる気がする」という感覚。これらとの関連を指摘する研究者もいる。
地下で「何かの音がした」という証言の多くは、こういった音響的な特性で説明できるかもしれない。
でも、だからといってすべてが錯覚とは言い切れないのが難しいところだ。
民俗学から見た「地下の存在」
民俗学の観点では、地下空間は古くから「境界の場所」とされてきた。
生と死の境界、人間界と異界の境界。地下は「あちら側」に近い場所として、多くの文化で特別視されてきた。
日本の妖怪の中にも、地面の下に関係するものは多い。土の中に住む「ツチノコ」(これは地表だが)、地面から出てくる霊的な存在の話は各地の民話に登場する。
また、井戸にまつわる怪談が多いのも同じ理由かもしれない。井戸は地下とつながる穴。「向こう側」への入り口として、怪談の舞台になりやすい。
河童の伝説も、水の下・地面の下に続く空間と結びついている。日本各地に「河童が住む穴がある」という言い伝えが残っており、その多くは川沿いや水路近くの、地面に開いた穴や洞穴だ。現代に置き換えれば、排水路やマンホールと重なる。
マンホールも、現代版の「井戸」や「地下への入り口」として、同じような恐怖の象徴になっているとも言えるかもしれない。時代が変わっても、人間が「垂直に開いた穴」に覚える感覚は、変わっていないのかもしれない。
実際に地下に生き物はいるのか
答えは、いる。
下水道にはネズミが多く生息している。ゴキブリの生息数も相当なものだ。場所によっては、魚が住み着いていることもある(下水道と川がつながっている場合)。
ニューヨークの下水道ではアライグマが発見されたこともある。フランスのパリでは、巨大ネズミの問題が深刻化しており、下水道内での駆除作戦が定期的に行われているとも報告されている。
日本の都市部でも、下水道内でのネズミの大量発生は衛生上の問題として継続的に対応が取られている。下水道の専門家によれば、「地下の生態系は思ったより豊か」という表現をする人もいるという。
生物学的に見ても、地下は決して「命が存在しない場所」ではない。光が届かない洞窟の中で生きるメクラウオ(目のない魚)、鍾乳洞に生息する固有種の昆虫。地下には、地上とは別の生態系が成立することがある。都市の地下で何かが生き続けていても、おかしくはない。
ただし「ワニ」や「巨大生物」が日本の下水道に住んでいるという確認された事例は、今のところないとされている。
世界の地下都市と隠された空間
都市の地下に「もう一つの街」が存在する話は、完全な空想ではない。
トルコ・デリンクユの地下都市
トルコのカッパドキア地方には、デリンクユという地下都市がある。深さ約85メートル、18層にわたる巨大な地下空間だ。最盛期には2万人もの人が地下で暮らしていたとされている。
キリスト教徒が迫害を逃れるために掘り進めたとも言われているが、起源は諸説ある。重い石の扉で入り口を塞ぐことができ、外敵が入れない構造になっていた。
この場所が一般に知られるようになったのは1963年のこと。ある住民が壁を取り壊したところ、その奥に巨大な地下空間があることが発見されたという。つまり、現代になっても「知られていなかった地下空間」が突然発見されることがある。
モントリオールの地下都市
カナダのモントリオールには、冬の寒さを避けるために作られた「地下都市」がある。総延長33キロを超える地下通路が、ショッピングモール・オフィス・地下鉄を結んでいる。世界最大規模の地下ネットワークの一つだ。
興味深いのは、この地下都市にも「公式マップにない通路」があるという話が絶えないことだ。50年以上かけて拡張されてきた結果、現在どこがどこに繋がっているか、完全に把握している人間がいないとも言われている。
東京の地下神殿
実はこれは都市伝説ではなく、実在する施設だ。
埼玉県春日部市にある「首都圏外郭放水路」は、地下50メートルに作られた巨大な貯水施設だ。直径10.6メートルの柱が59本立ち並ぶ調圧水槽は、まるで神殿のような光景で「地下神殿」と呼ばれる。
見学ツアーも行われており、一般人も入れる場所だ。しかしその規模の巨大さを実際に目の当たりにすると、「東京の地下にはまだ自分の知らないものがある」という感覚が強くなる。公式に公開されているものがこれだけ壮大なら、非公開のものはどれほどなのか。そう想像してしまう。
現代における意味|なぜマンホールの都市伝説は語り継がれるのか
インターネットが普及し、情報があふれる現代でも、マンホールにまつわる怖い話は消えない。むしろ増えているかもしれない。
なぜだろうか。
「見えない場所」への想像力
人間は「見えないもの」を想像する生き物だ。
マンホールの下は、ほとんどの人が実際に入ったことがない。見たことがない。だからこそ、想像の余地が無限にある。
現代は、検索すれば大抵の情報が手に入る時代だ。世界中の景色をストリートビューで見られる。でも、マンホールの下の実際の様子を「自分の目で見た」人はほとんどいない。
知らない場所、見えない場所。そこに何かを想像してしまうのは、人間の本質的な性質かもしれない。
都市という「人工の自然」の不気味さ
現代の都市は、人間が設計したはずの空間だ。でも、その設計の隙間に「人間の管理が及ばない場所」が生まれる。
廃ビルの地下室、使われなくなった通路、地図に載っていない空間。これらは設計者の意図と現実のズレから生まれた「人工の自然」とも言えるかもしれない。
人間が作ったのに、人間がコントロールできなくなった場所。その象徴がマンホールの下にある地下世界なのかもしれない。
都市化が進めば進むほど、地下のインフラは複雑になる。そして複雑になるほど、誰も全体像を把握できなくなる。「わからない」という感覚が積み重なって、恐怖に変わる。
SCPやクリーピーパスタとの親和性
近年、SCP財団(架空の怪異を収録したウィキ形式のホラー創作サイト)やクリーピーパスタ(ネット上に広まる怖い話)の文化が広まっている。
この文化の中でも、地下空間・マンホール・地下に潜む怪異はメジャーなテーマだ。
「バックルーム」と呼ばれる怪異は、現実の壁の「裏側」に存在する異空間という概念だ。無限に続く廊下と薄黄色い蛍光灯の空間。この概念が爆発的に広まったのは2019年ごろだが、「地下・裏側・人間が入れない場所」という恐怖の普遍性が反映されている。
マンホールも同じ文脈で語られることがある。あの蓋の下は「バックルーム」につながっているのではないか。そういう話がネット上に多数投稿されている。
SCP財団には、下水道につながる異空間や、マンホールを通り抜けると別の場所に出るという設定の「オブジェクト」が複数存在する。これらは創作だが、読んでいると「もしかしたら」という感覚が残る。それが優れたホラー創作の力でもある。
「知らなければよかった」という感覚の魅力
都市伝説は、知ることで逆に不安になる情報だ。
知らなければ、マンホールはただの蓋だ。知ってしまうと、踏むたびに「下に何かいるかも」という感覚が蘇る。
この「知ることで増す恐怖」が、都市伝説の魅力でもある。人間は怖いと知りながらも、怖い話を求めてしまう。それはホラー映画やお化け屋敷が人気である理由と根本的に同じかもしれない。
安全な場所で、コントロールされた恐怖を体験する。都市伝説を読むことは、その一種の体験なのかもしれない。
実際にある「謎の地下施設」の話
完全に作り話とも言い切れないのが、実際に「存在が確認されたが詳細が公開されていない地下施設」の存在だ。
日本では、東京の地下に戦時中に掘られた地下施設が複数存在し、一部は現在も封鎖されたままだとされている。政府や自衛隊が使う地下施設は、当然ながら一般公開されていない。
「何があるのかわからない」という事実が、都市伝説を育てる土壌になっている。
また、東京都心を縦横に走る地下鉄は、駅と駅の間に「不思議な空間」が目撃されることがあるという。トンネルを走る途中で、明らかに駅ではない広い空間が一瞬見えた、という話は乗客から報告されることがある。
これは実際に、使われていない準備工事用の広場や、合流するためのスペースが存在するためで、必ずしも謎の施設ではない。でも「一瞬見えた説明のつかない空間」という体験は、地下への想像をかき立てる。
地下鉄の路線図を見ていると、駅と駅の距離が妙に長い区間がある。その間に何があるのか、公式情報だけでは判断できない場所がある。「地図にない駅」「封鎖された区画」の噂は、いつの時代もなくならない。
もしマンホールの近くで不思議な体験をしたら
最後に、実際的な話をしておこう。
もしマンホールの蓋が動いている、下から音がする、蓋がずれているなど、異常を感じたら、絶対に自分で確認しようとしないこと。
下水道の中にはメタンガスや硫化水素が溜まっていることがある。少し吸っただけで意識を失うことがある危険なガスだ。毎年、下水道内での作業員の事故が起きているほど、地下空間は危険な環境だ。
硫化水素は「腐った卵のような臭い」と言われるが、高濃度になると嗅覚が麻痺して臭いを感じなくなる。臭いがないから安全、という判断は通用しない。過去に起きた下水道事故の多くは、「臭いがなかったので大丈夫だと思った」という証言が残っている。
マンホールから白い煙のようなものが出ていたり、異臭を感じたりする場合も同様だ。近づかず、市区町村の下水道管理部門か警察に連絡するのが正しい対応だ。
夜中に蓋が動いていたとしても、それが「何かがいる証拠」なのか「水圧や地殻変動の影響」なのかは、専門家でないと判断できない。怪我をしてからでは遅い。
地下への好奇心は大切にしてほしい。でも安全の範囲内で。
無謀な行動より、想像の中で地下世界を探検するほうが、はるかに面白いし、安全だ。
まとめ|マンホールの下は、まだ謎だらけだ
マンホールの下には何がいるのか。
現実的には、下水・ケーブル・ネズミ・虫が主な住人だ。
でも、それだけじゃないかもしれない。
戦時中の遺構、地図にない空間、作業員が口をつぐむ出来事。都市の地下には、まだ整理されていない謎が眠っているとも言われている。
世界中で「地下に何かがいる」という話が語られるのは、人間の本能的な暗所への恐怖だけじゃないと思う。実際に「何かがある」という経験をした人間が、何人もいるということではないだろうか。
もちろん、すべてが事実かどうかはわからない。見間違い、錯覚、音の反響、心理的な効果。説明がつく部分はある。
でも、「すべて説明できる」とは誰も言い切れない。
そして、その「言い切れない余白」こそが、都市伝説が生き続ける理由だと思う。
考えてみれば、人類は何千年もかけて地上に文明を作り上げてきた。でも地下については、まだほとんど何も知らない。地上から1メートル下に何があるか、正確に把握できている人間は誰もいない。そのすぐ足元に、自分たちの知らない世界が広がっているという事実。それ自体が、すでに少し怖い。
今日、外を歩くとき、足元のマンホールを見てほしい。
ただの鉄の蓋だと思っていたあれが、なんとなく違って見えるかもしれない。
下から、何かが聞き耳を立てているような気がしても、私は責任を取れないけれど。